【連載 糀入門・女将が伝える糀と腸活生活⑤】山崎糀屋の寒仕込み味噌

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糀屋と味噌

新潟県東蒲原郡阿賀町津川の山崎糀屋は明治元年から続く老舗で、現当主の女将・山崎京子さんが6代目となる。

「昔は街に『糀屋』はあっても『味噌屋』というのはほとんどありませんでした。味噌は買ってくるものではなく各家庭で仕込み、貯蔵して、熟成させるものという考えが一般的だったのです。最初の仕込みが大変なので、それを糀屋が代行するようになったわけです」(山崎さん)
 味噌は昔、各家庭のオリジナルに違いなかった。手ずから丹念に仕込み、その家に棲みつく乳酸菌や酵母らが発酵・熟成へと導く。
 その名残で現代にも自分や自分の家を誉めそやす「手前みそ」と言葉がある。「ウチの味噌は旨いよ」と自分の家の味噌を自慢することからきている。

 味噌づくりは大きく分けて2工程となる。原材料を処理して混ぜ合わせる「仕込み」とその「仕込み味噌」を発酵・熟成させる「醸し」。
 昔は「味噌3年フタ開けるな」と言われた。熟成が進んだ味噌は味も深まり、身体にも良い。熟成期間は長ければ長いほど機能性に優れた味噌となる。その土地の気候風土の中で、その環境に身をゆだねながら長期間熟成される自然醸造が本来の姿だが、味噌自体が「スーパーで買うもの」になってからはそんな悠長なことを言っていられない。大きなメーカーが大量に短納期で安価につくるためには圧力釜などでの加熱処理も必要となり、また売り場での常温保存に耐えるような保存料などの添加も多くなる。言ってはなんだが、こうなると自然醸造の味噌とは全く別物と言えるのではないか。

 その土地の気候風土の中ではぐくまれた自然醸造の味噌は、現代では貴重となった。
様々な土地を訪れた際に、その土地ではぐくまれた自然醸造の味噌を目にしたら、ぜひ買い求めることをお勧めする。味の深みも健康機能もスーパーに並んでいるものとは桁違いだ。

薪で豆を煮る意味

 山崎糀屋の仕込み味噌づくりはこだわりにあふれている。
 原材料は米糀と大豆、塩のみ。当然だが化学調味料、保存料などの添加物は一切使用されない。糀の原料米は契約栽培による新米のコシイブキ。大豆も契約農家から仕入れる新潟県産に限定。塩は赤穂の天塩。

 味噌の仕込みは大豆を煮るところから。山崎糀屋は昔ながらのやり方、薪火で豆を炊く。夜が明けたか明けないかの早朝から約8時間かけて、薪火でとろとろ煮込むのだ。
「薪火にこだわるのは別に伊達でやっているわけではありません。こうして柔らかな火でゆっくり煮込むことで、必要以上に大豆の栄養素も壊れませんし、薪火の遠赤外線効果で豆の芯までしっかり火が通ってふっくら柔らかに仕上がります」(山崎さん)

こうしてじっくり煮込まれた大豆は親指と小指に挟んでちょと力を加えただけでほろほろと煮崩れるほどに芯まで柔らかくなる。必然、仕込み味噌は肌理の細かい滑らかな仕上がりになり、旨味がしっかり閉じ込められる。
 こうして煮あがった大豆と糀、塩を混ぜ合わせて仕込み味噌を完成させる。

1、2月に仕込む「寒仕込み味噌」は特に良い。
冬の寒い時期はほかの雑菌が繁殖しにくい点。新米、新大豆が使える点。気温が低いために仕込んだ後の発酵熟成がゆっくりスタートすることで旨味が深まる点などがあげられる。

山崎糀屋ではこの仕込み味噌を5キロ単位で販売している。購入した人は「味噌オーナー」となり、各家庭でじっくり発酵熟成を見守る。それほど難しい手間はいらない。少し大きめの甕を用意して、比較的冷暗に置けば常温保存できる。たまにかき混ぜて「天地がえし」してやる。

 そうして味噌と暮らせば愛着も沸くだろう。「手前みそ」になる気持ちもわかる。さながら子供を愛でる気分か。
 「味噌を家庭で熟成させる」スローライフの入門編としておすすめである。

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