「国菌」である糀
新潟県東蒲原郡阿賀町津川の山崎糀屋を訪ねた。
明治元年創業のこちら、現在の当主は6代目女将の山崎京子さん。
「糀アンバサダー」として著名な山崎さんは、女将業のほかに講演やワークショップなどで日本の伝統食文化・糀の魅力を多くの人に伝えている。2021年8月には著書「糀入門・女将が伝える糀生活」を出版し話題となった。
女将さんは言う
「糀は国菌に認定されています。知っていましたか?」
花や鳥のように「国の菌」があることに、まず驚かされる。
「国の菌」があるとして、確かにそれにふさわしいのは糀菌をおいてほかにはないかもしれない。
それは日本の食文化に与えた影響の大きさだ。和食の象徴的存在としてある味噌、醤油はもちろん、
日本酒、漬物、塩こうじなど枚挙にいとまがない。
2013年に「日本食」がユネスコの世界遺産<無形文化遺産>に登録されて以来、
世界的な認知度と浸透度は増し、リスペクトが高まったといえるが、その日本食を支えてきたのが糀の存在である。
女将さんによると、糀<こうじ>のように穀物にカビ(糀菌はカビの一種である)をつけて発酵調味料や食材にするものは、アジアの各地域にあるらしい。このページではそれらを総称して「麹<こうじ>」と表記し、日本食に使われる米糀<こめこうじ>を「糀<こうじ>」と表記したい。
「わたしは<こうじ>というときには必ずこの糀という漢字を使います。カビの一種であるものが米に花と書かれるのが素敵だと思うのです」

世界で一番やさしいエネチャージ
糀が健康に良いと注目されはじめたのは、2015年ごろから「糀甘酒」がちょっとしたブームになってからだろう。それまで「甘酒」といえばどちらかといえば酒粕を煮て家庭で作られるものが認知されていたが、糀から作られる甘酒の自然な甘さとそれがもたらす美容と健康の恩恵が注目されたものだ。
先に甘酒が注目されたが、これは糀のもつ機能の高さがあっての話。
「糀が体に良い」には様々な要素がある。ひとつは必須アミノ酸をすべて含むこと。そして豊富なビタミンB群を含むこと。体の疲労回復と栄養補給に最適なのだ。
江戸時代は貧困の武士が「甘酒売り」の副業をはじめ、夏の暑い時期に街で売り歩いていた。これが定着し、夏の風物詩として語られ始めたため、俳句の世界で「甘酒」は夏の季語となっている。
また昔の人は妊娠した女性に甘酒を飲ませて体力をつけさせたという話もある。糀からつくった甘酒はノンアルコールで栄養価が高いことからだ。
まさに世界でいちばんやさしいエネチャージ。昨今は多くのエナジードリンクやサプリがあふれているが、糀ほど根拠が示されているものは見当たらない。

「糀に含まれているアミノ酸やビタミンは確かに美容や健康にとって有用なものです。ただ、それは糀の良さの一面に過ぎません。糀の一番の良さは植物性発酵食品として蓄える乳酸菌と酵素です。これが直接腸に届くことによって、腸の働きを整え、ひいては体の機能を回復するわけです。さらに言えば糀のこうした機能が有用なのは日本人の腸です。腸の構造や働きは人種・民族によって違う、いわば環境によって形成される部分が多いのです」
糀=腸活は発酵食品としての酵素に尽きる。発酵食の研究を進めると、それは酵素学に行き着くという。腸に酵素が活きたまま届くことで、身体のすべてに作用するのだ。
話はさらに深層に、さらに真相に近づく。
次節へ続く。


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