
新潟古町・藪蕎麦の「今月のおそば」
新潟では珍しい江戸蕎麦
新潟で「いわゆる蕎麦=江戸蕎麦」を食べようと思ったら、探すのに意外と苦労する。
これ実は新潟あるあるのひとつで、新潟の蕎麦好きには悩ましい問題なのだ。
基本、新潟で「蕎麦屋」といえば海藻の「ふのり」を使った「新潟へぎそば」が主流で、
地元でおなじみ小嶋屋をはじめ、ほとんどが「へぎそば屋」なのである。語弊のないように付け加えれば、これはこれでうまい。
最近でこそ、民芸風の建屋で田舎蕎麦を出す店も増えてはきたが、それも江戸前の二八蕎麦とはちょっと違う。まず店構えからなんか違うのだ。
もちろん蕎麦そのもの、料理そのものも大事なのだが、蕎麦屋のスタイルを味わうというのがこの食文化の良いところでもある。新潟にも名店は数あるが、東京都内の名店であるやぶ、砂場などの流れをくむ江戸蕎麦の粋を感じられる店はほとんどないのが残念だ。
そうした新潟では数少ない、江戸蕎麦の粋を感じられる店が新潟市の歓楽街・古町にある「藪蕎麦(やぶそば)」だ。
最初は屋号からして神田、虎ノ門の名店「やぶ」ののれん分けかと思われたが、聞いてみると直接の関係はない様子。
昭和初期に、東京の蕎麦店で働いてご夫婦が独立して新潟に店を出すことになった際、つけた屋号が「東京庵やぶ」だったそうで、現在の2代目社長の母親が創業したのが新潟の「藪蕎麦」なのだそう。当代はその2代目社長の息子が切り盛りしているのだという。新潟では珍しい「東京スタイル」の蕎麦屋なのだ。
新潟古町 藪蕎麦 所在地:新潟県新潟市中央区古町通り八番町1490 TEL:025-222-7982 営業時間/11:00~20:00(日曜日は17:00まで、第3火曜日は14:00まで) 定休日/毎週水曜
蕎麦前もよし
こちら藪蕎麦では毎月「今月のおそば」という期間限定メニューを出している。
その中でも毎年1月に出される「牡蠣そば」が実に評判。新潟の蕎麦好きの間では、
冬の風物詩と認識され「今年はもう食べたか」などと会話に上るほどおなじみ。
この牡蠣そば、どんぶりに入った温かな「タネもの」と呼ばれるジャンルだが、江戸前のスタンダードにはないメニューのようだ。全国的にも名店と呼ばれる中でこれを出している店はちらほら確認できるが、決して多くはないので創作色の強い題目といえよう。
もちろんこれをいただきに藪蕎麦へ足を向ける
テーブルに椅子席がメーンになっている店構えが、新潟では珍しい。新潟の和のお食事処は、蕎麦屋も含めて、何故だか座敷席に力を入れるところが多い。外食=家族で、という新潟独特の食スタイルからくる需要なのかもしれない。

その点で、藪蕎麦の店内は実に江戸スタイルを踏襲していて好ましい。
こういう店だからまた「蕎麦前」も楽しめるというもの。

酒の相手には「厚焼きたまご」をとることに。
本来なら冷酒というのがスタイルなのだろうが、ここは自由にレモンサワーでいただく。
厚焼き玉子のほうは、実に「蕎麦屋らしい」卵焼きだ。蕎麦つゆで味を調えてあるのだろうか。
甘みはあるがダルくなく、酒のアテにちょうど良い。
なによりフワフワがたまらない。蕎麦が来る前にこんなに楽しんでよいのか、
というくらい満足の蕎麦前になった。
牡蠣のうまみが溶け出して…
さていよいよ登場した「今月のそば=牡蠣そば」である

シンプルな外観。「かけ蕎麦+牡蠣」に他ならない。
そばを手繰る前に、汁をひとすすり。
今日のような寒い日には何ともしみる味。
牡蠣のウマみが明らかに溶け出して、
そばつゆを一段上のものに引き上げている。鰹ダシと牡蠣は相性が良い。
汁には中粒の牡蠣が6粒放り込まれている。
佐渡産の牡蠣だが、加熱してもまったくしぼむことなく、
ぷりぷりとしている。よほど上手に処理しないとこうはならない。
汁をすする、そばを手繰る、牡蠣をつまむ・・・・
あれ、気が付かないうちに丼が空っぽに。
藪蕎麦の「今月のそば」牡蠣そば、1600円也は、
あっという間に胃の腑に落ちていった。
ウマい、けど儚いもの。季節を味わうってこういうことなのだ。
さて来年また食べにこようか。
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