海外進出も果たしたローカルフード
新潟県妙高地方に古くから伝わる辛み調味料「かんずり」は、近年あらゆる大手食品メーカーとのコラボによって、認知度も高まってきた感がある。
もともと一部では「東のかんずり、西の柚子胡椒」と並び称された「ご当地香辛料」ではあり、新潟の隠れた名物としてお土産需要は高かったが、それこそ柚子胡椒に比べると浸透度は物足りなかったように感じる。

秋に収穫した唐辛子を塩漬けにし、糀や柚子などと混ぜて3年以上熟成させた発酵調味料。言い伝えでは、越後の虎・上杉謙信が戦場に携行したとも言われる。化学調味料など添加物は一切使用せず、長期熟成も妙高の四季の中ではぐくまれる天然醸造で、文字通りの自然食品だ。
唐辛子の一本調子な辛みだけでなく、発酵熟成によって複雑な味わいと旨味が加わった秀逸な食文化だ。鍋料理の薬味としての用途が代表的だが、熟成されて丸みを帯びた辛さは様々な料理に応用できる。コラボ商品が増えているのも、かんずりのオールマイティさの表れだろう。
近年は北米をはじめ海外にも輸出されている。ステーキなど肉料理との相性がことのほか素晴らしいため、欧米での需要が高いようだ。
白地に赤の官能美
そのかんずりの「雪さらし」が、毎年1月20日に行われる。「雪さらし」とはかんずりの製造工程の中で重要な意味を持つ。秋に収穫され塩漬けされたかんずり用の唐辛子は塩漬けにされたのち、雪の上に撒いてさらす。この作業によって辛みの角がとれるのだという。辛みが抜けるのとは違い、発酵によって生まれる旨味と調和するように辛みの角を取るのだ。
さらに雪にさらすことによって唐辛子のアクや苦み、雑味が抜ける。繊維が柔らかくなり味がしみこみやすくなる。
唐辛子を雪に撒く作業は近年、雪深い郷の風物詩として注目されるようになり、当日はマスコミや多くの見物客が訪れるようになった。製造販売元「かんずり本舗」の裏にある広大な雪原が舞台だ。

ご覧になっておわかりのように、契約農家で栽培されたかんずり用の唐辛子は独特な形状。かなり大振りである。
このかごをもった女性たちが、雪原にどんどん唐辛子を撒いていく。真っ白なキャンバスに深紅の絵の具で描くように。日本人にとって赤と白のコントラストは特別な意味があるのか、陶然とするような美しさに引き込まれる。天気がカラッと晴れていると(そういう年は珍しいようだが)、バックに妙高連山を借景しさながらフレームに収まった絵画のようだ。

唐辛子は3月ごろまで雪にさらされ、その後は3年以上の長い眠りにつき、たっぷりと旨味を蓄えて越後の辛み調味料に生まれ変わる。
前述したが、今年も1月20日に慣行予定。この美しさは、一度目にしておいて損はない。