環境が腸をつくる
新潟県東蒲原郡阿賀町津川の山崎糀屋女将、山崎京子さんはこう言います。
「動物の体は、その住む環境に適応しながら長い年月を経て変わっていきますよね。人も同じです。砂漠に住む人、高山に住む人、熱帯地方に住む人、極寒の地に住む人それぞれが環境に適した体の仕組みになっていくのです。特に消化器官は、土地土地の食の環境に適応して形づくられていきます。
欧米人はヨーグルトを食べると腸の改善になると言いますが、それは欧米の環境によってつくられたカラダだからです。日本人の腸はヨーグルトのような乳製品を上手に消化吸収するつくりになっていません」
健康のためにヨーグルトを欠かさない、そんな人は数多いのではないか。
発酵食品のヨーグルトを摂ることで腸の働きの助けになる。常識だと考えられていたこの理屈に、女将さんは異を唱える。日本人の腸は乳製品の消化吸収に向いていないのだと。
「私たちは子供のころから”カルシウムが豊富な牛乳を飲むと骨が丈夫になる”と教えられ、学校給食などでも毎日のように摂取してきました。しかしその結果、日本人の骨は強くなったでしょうか?日本の子供の骨は昔よりも弱くなりすぐに骨折しやすくなったと言われています。実際に骨粗しょう症にかかる人の割合は昔よりも増えました。私は日本人の現代病だと思います。日本人の腸がうまく乳製品を消化吸収することに向いていないのです。

日本人の食生活は戦後、高度経済成長期を経て大きく変化した。欧米に近いものとなり、小麦粉と乳製品が多く消費されるようになった。その結果、日本人の体形は欧米人に近いスラッとしたものになった。医療の進歩で平均寿命も延び、根絶された疾病なども多いのだが、一方で昔はほとんどなかった食物アレルギーや前出の骨粗しょう症など現代病という症状も数多く生まれている。そして、かつて日本人がかかるがんは胃がんが圧倒的だったが、今は大腸がんが1位だったりする。
米食文化に支えられた日本人の腸
山崎さんは人間の腸と環境の関係に気が付いてから、世界14か国を回りそこに住む人と食べ物、そしてそれを消化吸収する腸の相関関係を見てきた。それも日本と自然環境が大きく異なる極地を多く訪れている。
「アフリカのマサイでは主食は牛の血液でした。極寒のイヌイットでは野菜は一切食べられないのでアザラシの肉からビタミンを摂っていました。南米の高地に住む民族にも砂漠にすむ民族にも特有の食文化があり、それぞれを消化吸収するに相応しい腸のつくりになっているようです。
昔から”身土不二”という言葉が言われますが、体のためには住む土地で採れるものを食べるのが一番良いのです」(山崎さん)
日本人を含め、東アジアに麹の食文化が根付いたのは、その気候や米食文化によるところが大きいだろう。特に日本の場合は米麹が自国の食文化に大きな影響を与えている。
そこに日本人の体づくりのヒントがあるのではないか。
「昔はよかった」と”昔帰り”を勧めているわけではない。ただ、近年になって麹をはじめとする日本古来の発酵食品が見直されているのは必然ではないだろうか。
次節へ続く。


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